■コンプライアンスに関するメッセージ メッセージの中身も大切ではあるが、心で共感できる社員の母集団を大きくしていく ことが遥かに重要だ。 ◇ コンプライアンス案件の概況 @ 個別案件の報告・相談状況 関係会社も含めた当社のコンプライアンス案件の量の多さを感じたが、これは情報の パイプが詰まることなく、きっちりと案件が上がって来ていることの裏返しであり、 Positiveに評価したい。 A コンプライアンス案件の裏側 「一の『ヒヤリ・ハット』の裏には百の『ヒヤリ・ハット』がある」ということが言 われているが、同じく一つのコンプライアンス案件の裏側には、同じ様な案件が複数 存在する。例えば、下請業者に対して交際費を付回すという案件の場合、その根底に は下請業者に対する締付けという基本的体質があり、交際費の付回しに類似した事象 は沢山隠れていると考えるべきである。一案件の対処療法でなく根本治癒というアプ ローチをとる必要がある。 B コンプライアンス問題の集中分野 3つ目は、特定の業界・分野にかなりの数の案件が集中しているということである。 これらの分野は業界自身が歴史があるため、業界慣行がそのまま「業界の常識」と して行われており、仕方なくやっているという部分があるのではないかと思われる。 組織カルチャーを変える所迄踏み込まないと中々解決できない問題と認識している。 C 関係会社案件 もう一点は、関係会社案件が多いということである。これは、「現場」が親会社単体 の中から関係会社に移されていること、未だ関係会社迄コンプライアンス意識が徹底 されていない事によるものであろう。また、関係会社案件を見てみると、関係会社固 有の社員のミスよりも、関係会社と親会社本体がOverlapする部分、即ち、出向者絡 みの問題の方が根が深い問題である。コンプライアンス意識アンケート調査からも、 関係会社にMVVやコンプライアンスを伝播させる使命を負っているはずの出向者が、 関係会社における様々な問題の原因となっていることが浮かび上がって来ている。 関係会社であれば出向者自身、単体側社員の中に問題の本質があるのではないかと感 じている。 ◇ 現場への明確なメッセージ 最後に、「現場に悩ませない」ということについてお話したい。内部監査を実施した 際、重要得意先からの要請を断り切れず偽装請負を行ったという事案が見つかったこ とがあった。取引関係を絶たれたらと困るということで、現場が取引先の要請に応じ たということであったが、こういったケースにおいては、関係会社社長や主管部長あ るいは本部長が、「そんな商売は止めても構わない」と毅然とした態度を示すことが 大変重要だ。そうでなければ、現場ではなかなか判断が仕切れず、大きいものに流さ れることとなる。上に立つ者が、「仕事での失敗はOKであるが、不正は1ストライク・ アウト」と徹底することが重要だ。 コンプライアンスに対する時代の趨勢も2・3年前と比べて変わって来ている。以前は、 コンプライアンス担当の上役から「タテマエではわかりますが、本音でもそうやって 動くんですか?」とか、「コンプライアンスなんか一生懸命にやっていると商売なん かできない」という声が聞かれたが、最近では、そういったことを言う重役はいなく なり、全て本音としてきっちり行わなければならないと認識されているというのが現 在の状況と思う。 こういったことを考えていると、時代の趨勢と一致しており、「コンプライアンス対 応が達成されつつある」という非常によい傾向との印象である。 ◇ 内部通報制度の運用 実際に運用していくと、寄せられたものが通報なのか、相談なのかが判然としない場 合もある。真摯な通報の中には、「私の親しい人がこういうことをやっているが、こ れは大丈夫なのか」といったように、通報とも相談とも区別がつかないものが多いが、 そういったものこそが会社にとっては重要だ。はっきり通報だと分かるものは、むし ろ相手を追い落とす目的、中傷目的であるものも多いと思われるので、内部通報制度 の運用に際して、「はっきりした通報でなければ内部通報として受け付けない」とい うようにしてしまうと、本当に必要な内部通報があがって来なくなる可能性がある。 それゆえ、実際の運用に際しては、はっきりとした違反とわからないものでも、窓口 に連絡してもらうような形で周知すると、よい情報が窓口に上がって来る。